新庄動物病院 今本成樹 院長
― 犬種による遺伝病と現状についてお願いします
ほとんどの犬種は、人間により作られました。そして、先祖からその犬種独特の遺伝子を受け継いでいます。その遺伝子に病気の情報が含まれることがあります。それが遺伝病です。純血種にはそれぞれに、特徴的な遺伝病があるといっても間違いではありません。
例えばダックスフンドの胴が長いのは犬種の特徴ですが、特徴の中でも不都合なものが“遺伝病”と言われています。またそれ自体が各犬種の特徴でもあります。たとえばダックスフンドではヘルニアになる確率が高く、また、別犬種のキャバリアでは高い確率で心臓が悪くなる恐れがあります。各犬種に仕組まれた遺伝子がそうさせています。遺伝子というのは、体を作る設計図で、その設計図に病気の情報が刻まれていたら、設計図通りに病気も作られるのです。面白いことに犬種の系統図に病気ごとに色を変えてシールを貼っていくとグループごとに同じ病気が流れていくのがよく分かります。
現在ほとんどの犬種に白内障が遺伝することが確認されますが、そのうち約30種の犬種に原因となる遺伝子が判明し、すでに遺伝子検査も可能となっています。遺伝子検査により白内障遺伝子が確認された個体は最終的に目が白くくもり視力が落ち最後は目が見えなくなります。
遺伝性疾患の多くは、治すことができません。
遺伝子検査は次の世代に病気を持ち越さないためにやるということが大事です。
― 遺伝子検査は飼い主よりブリーダーの義務ですか?
現在国内の優良なブリーダーの中は検査を積極的に行い、病気の可能性の少ない家系と遺伝病を持っている家系を区別し、飼い主に元気な子を提供しています。このような作業が遺伝病を封じ込める最高の手段だと思います。遺伝子検査は義務ではありません。だからといって、これらの疾患を無視していいわけではありません。気になるのが犬種や遺伝病の知識なしに繁殖させ流通させている粗悪業者や、また、この子の子供が見たいと安易な繁殖をさせる飼い主の存在です。これらは知らず知らずに遺伝病を蔓延させ原因でもあり、ペットも飼い主も不幸にします。
愛犬が病気になれば、もともとペットに癒しを求めている飼い主にも過大なストレスをもたらします。もちろんそのストレスは、病気になったペットが一番ですが、たとえばミニチュアダックスフンド(ロングヘアー)にPRA(進行性網膜萎縮)という病気がありますが、網膜の萎縮が進行し最終的に見えなくなることを獣医師より告知されます。飼い主はその時点から将来自分の飼っているペットの目が見えなくなると言う不安とストレスを抱え込まなければならず、癒しのはずのペットがストレスの原因になります。遺伝子が原因の遺伝病を持つ子を迎えてしまった飼い主さんはかなりの金銭や時間的な労力を費やさなくてはならず悲劇です。
― 遺伝病を把握し系統を管理区分している優良ブリーダーからの購入が安心
最近医学が進みたくさんの遺伝病の存在が確認されつつあります。近親交配は遺伝病の元凶でもありますが、反面きちんと管理されたブリーディングでは犬種の特徴をより良く次世代に受け継ぐ遺伝子を持つ個体同士の交配により、純血種独特の美しい外見を持ち、さらに病気の少ない個体が作られます。遺伝子検査は生涯一度の検査でよく、自分のペットが病気になる遺伝子を持っているか知ることは、重要です。また、病気の発症の可能性のある遺伝子が確認されれば一代かぎりで、繁殖させず遺伝病の蔓延を未然に防ぐ[次の世代に遺伝病を持ちこさない]のも飼い主やブリーダーの責務ではないでしょうか。遺伝病のほとんどが劣性遺伝で、両親に遺伝病が確認されなければ子供には現れないのも特徴です。これらをどうすれば封じ込めることができるかは、両親の遺伝子検査が一番です。
検査の結果キャリアかクリアーかを確認できれば、クリアーの個体同士での繁殖をすれば遺伝病は出ません。またキャリアは一代飼育で繁殖には使わないということが望ましいです。
現在、日本国内の遺伝病に対する知識や環境は非常に危険な状態にあります。
ボーダーコリーのCL症(進行性の運動障害・知的障害・視力障害を特徴として最終的には必ず死んでしまう病気)はオーストラリアから輸入された犬から入ってきました。すでに、国内飼育のうちキャリアの確率は約7.5%と言われ非常に高い確率で病気の遺伝子を持っています。発症すれば必ず死に至る“致死遺伝病”です。他にジャックラッセルやチワワでも少数ですが国内でも確認されています。
現在、犬の遺伝病はわかっているだけで約500種類が確認されています。ちなみに去年一年に世界で約10種類の新しい犬の遺伝病が発見されていますが、1種類の遺伝病を根絶するのに早くても数年の年月が掛かります。現在国内で飼育される犬の全頭検査は不可能ですがブリーダーが繁殖させる際には遺伝子検査を行いキャリアでの交配を行はないというモラルが必要ではないでしょうか。実際にそうした取り組みをされているところもあります。経験豊かなブリーダーは、すでに病気の原因遺伝子を持つ子を、繁殖場に導入段階で検査をして把握していたりします。
― 国内や海外の現状はどうですか?
現状では国内で遺伝子検査を行っている飼い主の数は非常に少ないのが現状です。
国内の優良ブリーダーの有志でこの問題に取り組んでいるのが現状で、海外ペット飼育先進国といわれる国々からは、日本は非常に遅れていると言われています。
以前、オーストラリアの遺伝子検査会社での話ですが、日本では素人繁殖が多く遺伝病に関しては野放しではないかと言われことがあります。
国内では、日本動物遺伝病ネットワーク(http://www.jahd.org/)が股関節の病気を減らそうと取り組み減少させています。[股関節は遺伝子検査ではなく、レントゲンでの検査です]また、ボーダーコリーヘルスネットワーク(http://bordercollie-healthnetwork.hp.infoseek.co.jp/)なども啓蒙に尽力しています。
最後に、遺伝子の採取は比較的簡単に行うことができますが、診断に直結するので経験のある獣医師が責任を持って行わないといけません。そして私が望むのは保険会社や業界全体が一丸となってこの問題に取り組んでもらいたいと思います。業界全体を考えれば病気を未然に防ぐことが業界の衰退を未然に防ぐことにも繋がると思います。
ペットブームの加熱も悪くはないですが命の大切さをもう一度考え、ペットも家族の一員だから病気は早く未然に見つけてやってほしい。病気を治療する側の我々もペットの病気を治療する上で多大なストレスを受けます。遺伝子の中に病気の情報が刻まれている遺伝病のほとんどは治せなくて診断するたびに自分の無力さを感じます。進行を見守るしかないのです。獣医師も動物が好きでこの仕事に従事しており、病気に侵されている動物を診るのが好きな人はいないと思います。やっぱり、治らない病気を診療するのは、獣医師としてもつらいです。そういう動物を見るとかわいそうだと思ってしまいます。人間が作り出す命ですので、せめて幸せになってもらうためにできることをやってみてもいいのではないでしょうか?その一つとして遺伝子検査も含まれると思います。


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