2008年3月、私はエリザベス・オリバー
さんの招きで、一連のセミナーと実習を行なうために来日し、あわせて、アークにも訪問しました。出発前に英国で、日本の動物福祉事情についてできる限り調べました。様々な情報を集めたものの、結局、いつもの海外旅行と同様、先入観にとらわれず、現地に行ってから自分で判断しようと心に決めたのです。
私が日本で見たのは、動物福祉に対する姿勢も、意識も一様ではなく、種々入り混じったものでした。アークには、献身的に働くスタッフとボランティアがいました。預かっている動物が新しい家庭に貰われて行くまでの間、最高の待遇を受けられるように、彼らは骨身惜しまず働いていました。動物の中には、健康上、行動上の問題からリホーミングのチャンスがほとんどないまま、長年アークで暮らし、今後も留まり続けると予想されるものもいました。そういう動物も、知的好奇心をできるだけ刺激し、運動も愛情も存分に与えています。スタッフは、ケンネルや猫舎に入るときは動物たちに声をかけ、清掃のため外に出すときや、散歩前にハーネスをつけながら、動物を抱きしめたり、キスをするのが日常的でした。
その後、ペットショップと保健所を訪問しましたが、どちらも、アークとは対照的に殺伐たる光景でした。そこで目撃したものは、幸いにして大部分の動物が正当に扱われている英国のシステムに慣れた私の目には、あまりにも衝撃的でした。ペットショップは、人工的な蛍光灯でこうこうと照らされていました。展示動物の多くはファッショナブルな血統種の子犬です。寝床もなければ、オモチャは無論のこと、水や餌さえ用意されていないケースもありました。ほとんどの犬は1匹ずつ隔離されていて、退屈のあまりに頭が変になっている様子。動物には様々な感情があるのに、幼少期の肝心なときに社会化訓練を受けていない彼らは、一生涯、問題行動を示すのではないか…と危惧されます。何の因果でこのような仕打ちを受けるのか、動物自身は知るはずもなく、じっとしている動物を見るのは耐えがたい思いでした。もちろん、彼らには何の罪も責任もありません。おびただしい数の子猫も、やはり、孤独で退屈そうにしていました。ある店では、ヤギ1頭、サル2匹を展示していました。狭いケージの中を絶えず行ったり来たりしているサル……彼らが何を考えているのか、想像する気にもなりません。彼らにとって、何と恐ろしい“生”でしょうか。サルを買うなんて、一体どんな人物なのか……考えただけで、彼らに明るい未来が待ち受けているとは思えません。
私たちが訪ねたペットショップの1つは、店というよりは、むしろ、繁殖施設のようでした。犬と猫(大部分は成体)の入った折りたたみ式ケージが積重ねてありましたが、知能を刺激するような物は何も与えられていません。このいまわしい施設の主人は、所有動物のほとんどを私たちに見せようとしませんでした。男が何を隠したがっているのか…想像がつくというもの。男の手首に人目をひく包帯が巻いてあったので、哀れな“繁殖マシーン”のだれかがひどく噛みついたのかな…と想像して気持をまぎらわせました。本当にそうだといいのに! オリバーさんは所有者の「登録証」を確認しました。壁にかかっている標識には「5年間有効」とありました。誰がこのような施設に営業許可を与えているのでしょう。ペットショップほど悲惨な光景はあるまいと、私は愚かにも思っていました。その後、徳島県の保健所を訪問しました。それは、今までに例のない目をおおいたくなる経験でした。保健所の動物は、オリバーさんの言う通り、まるで「生ける屍」でした。彼らの多くは、もはや、“監獄”の前方に出て来ようとする力さえ失っているようでした。愛情に飢えた動物は人間との接触を求めるものなのに……ほとんどの犬は、後ろの方で氷のように冷たいコンクリート床にじっとすわったままです。なんの“ぜいたく品”もありません。せめて新聞紙でもあれば、多少とも寒さをしのげるのですが……ある犬は上顎が大きく腫れ上がっていて、食べることもできない状態でした。規定拘束期間の7日は、あの子にとっては、あまりにも長い「地獄の苦しみ」でしょう。
日本を離れるとき、私は悲痛な思いに駆られていました…日本で出会った人たちの多くが「このままではいけない」と口に出しても、物事を変えようと積極的に動こうとしないのです。変化をもたらす大本は政府であり、そこが変革を具体的に促す指示を出さない限りは、現状を変えることはできないように感じました。
初めにも触れたように、日本にも動物を助けるために素晴らしい働きをしている人たちがいます。なかでも、アークのエリザベス・オリバーさん、ハートのスーザン・マーサーさんはその代表格です。このような方たちがいなければ、この国で苦しむ動物の数はさらに増えていたでしょう。
変化をもたらそうと努力しているのが「外人」なのは、単なる偶然でしょうか。
安楽死に対する考え方も変えるべきだし、できる限り多くの動物に不妊手術を行なう実際的取組みが必要です。不妊処置が済んでいない保健所の動物をリホーミングするのは、あまりにも多数の犬猫が“早すぎる死”を迎える異常事態を悪循環させるだけです。
今回の日本訪問で私が見たことについて、批判めいた発言はこれくらいにして、「私が日本に望む変化」を次の3点にまとめてみました。
1. 動物福祉関連の法整備のために(とりわけ保健所閉鎖のために)、政府には思い切った方針転換が必要です。動物の安楽死はすぐに結論の出る問題とは思わないものの、少なくとも「死に方」としては簡単なこと。私が出会った獣医は、安楽死が必要な犬を扱うのをこわがっていました。バルビツール剤の静脈内投与によって苦痛のない「安楽死」が保証されますから、適切なハンドリングと抑制訓練によって容易に解決できる問題です。
2.日本全国の獣医師は、できるだけ多くの動物に避妊去勢手術を推進する必要があります。世界中の主要国に見る通り、これこそが、動物の過剰繁殖を抑制できる唯一の方法だからです。
3.一にも、二にも、三にも、教育。教育を強調しすぎることはありません。大人も子供も、動物に対する態度を改める必要があります。動物は使い捨てにするものではなく、恐怖、痛み、苦しみを感じる「知覚を持った生きもの」で、商品のように扱ってはいけないことを教えるべきです。今回の日本訪問は、まさに、私の目を開かせてくれるものでした。日本滞在を思い出深いものにすべく、ご尽力くださった方々に厚くお礼を申し上げます。セミナーご参加ありがとうございました。ご出席の皆様のご参考になれば幸いです。英国の動物事情は確かに進んでいますが、最初からそうだったのではありません。動物愛護先進国だから英国は恵まれている…と思わず、1つのモデルと考えてください——変えたいと願う強い意思があれば、どれほど変化し得るかを示す好例として。

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